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仙台高等裁判所秋田支部 昭和24年(を)68号 判決

被告人

竹内正義

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人木村一郎の控訴趣意第一点について。

記録によれば、被告人に対する起訴状記載の訴因の中第一の三は、被告人は成田鉄郎、櫻庭忠治等と共謀して、昭和二十三年十一月二十九日、南津軽郡大鰐町大字大鰐湯野川原八番地、菊地栄三郎方土蔵から、同人所有の男二重マント一枚外五十二点を窃取した窃盜の共同正犯の事実であるのに、原審は刑事訴訟法第三百十二条によつて、訴因の変更を命ずるの措置をとることなしに、判決において、論旨摘録のように右訴因に掲げられた窃盜についてその教唆の事実を認定していることは、まことに所論のとおりである。

しかして、かゝる場合に訴因の変更を必要とするか、或はその必要なしと解するかは、訴因の観念とともに、新刑事訴訟法上最も疑問の多い問題で、訴因の観念の異るに従い、そのいずれとも解し得られるのであるが、同法第二百五十六条及び第三百十二条によれば起訴状に記載する公訴事実は訴因を明示するにはできる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定することを要するが、訴因は予備的にまたは択一的にも表示することができ、また、公訴事実の同一性を害さぬ限り検察官は訴因の追加、撤回、変更を請求でき、裁判所は審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因、または罰条を追加、変更すべきことを命じ得るのであり、訴因の追加、撤回、変更があつたときはその旨を速やかに被告人に通知することを要し、もし、それによつて、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人または弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならないのであるが、一方起訴状に記載すべき罰条の誤は、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさないと規定しているのであつて、これ等を考え合せると、訴因、罰条はこれによつて、被告人が事実的及び法律的防禦の方法を準備することがき、被告人に対し全く予期しない事実の認定せられることを防ぐとともに、裁判所は訴因と罰条とによつて拘束され、その訴因と罰条以外で有罪の判決をすることができないのであるが、その拘束は絶対的ではないことは前記のとおり罰条の記載の誤りにつき、規定されてあることにより窺はれるのであつて、結局公訴事実の同一性を害せず、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞のない限り、訴因と判決の認定事実との間に若干の相違があつても、刑事訴訟法第三百十二条の措置をとる必要がないと解し得るのである。本件の訴因に掲げられた窃盜の共同正犯と原判決認定の窃盜の教唆とでは、窃盜の基本的事実は同一であり、さらに正犯も教唆も等しく共犯と呼ばれ、単にその犯行の態様を異にするにすぎず、両者の公訴事実はその同一性を有することは疑なく、また、かゝる場合には被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞ありとは認められないから、原審が刑事訴訟法第三百十二条の措置をとらずに前記の事実を認定したからといつて違法ではなく、論旨は独特の見解であつて採用できない。

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